春の足音が聞こえてくると、街の色がガラリと変わりますよね。
桜の開花予想がニュースを賑わせ、並木道の枝先が心なしかふっくらとしてくる。カレンダーを1枚めくれば、そこには「4月」の文字。テレビをつければ、昨日までとは違う顔ぶれのキャスターが「新しい季節が始まりました!」と、眩しいくらいの笑顔で語りかけてくる。
そんな中、街で見かけるのが、まだシワひとつないスーツに「着られている」ようなフレッシュマンたち。慣れない手つきでスマホの地図を見ながら、早足で歩いていく彼らの姿は、まさに「希望」そのものに見えます。
……でも、ちょっと待ってください。 その光景を見て、胸がキュッとなったり、逆に「はぁ……」と深いため息をつきたくなったりしている人、実は結構多いんじゃないでしょうか。
「新生活なんだから、自分も何か新しいことを始めなきゃ」 「心機一転、資格の勉強でも始めようか」 「朝活をして、自分をアップデートしなきゃ」
そう思えば思うほど、なぜか頭はぼんやりして、身体は鉛のように重い。 カーテンを開けるのすら億劫で、キラキラした外の世界から自分だけが取り残されているような、得体の知れない焦燥感。
今日は、そんな「春の置いてけぼり感」を感じているあなたへ、少しだけ肩の荷が軽くなるようなお話をさせてください。
実は、私も「春」が苦手でした
偉そうなことを言っていますが、数年前までの私は、1年の中で春が一番嫌いでした。
世の中全体が「おめでとう!」「スタート!」と盛り上がっているのに、自分の中のエンジンだけがどうしてもかからない。周りがフルスロットルで加速していく中で、自分だけがニュートラルに入ったまま、空吹かしをしているような感覚です。
ある年の4月、私は新しい趣味を始めようと、結構高いランニングシューズを買いました。「春だし、自分を変えなきゃ」という強迫観念に近い思い込みからです。 でも、結局そのシューズを履いたのは、わずか3回。 3回目に玄関を出ようとしたとき、ふと鏡に映った自分の顔を見たら、驚くほど疲れ切っていたんです。ちっとも楽しくなさそうでした。
その時、気づいたんです。 「あ、私は今、何かにチャレンジしたいんじゃなくて、ただ休みたいんだな」って。
春は「心身のバランス」が崩れて当然の季節
私たちはロボットではありません。 春は、冬の寒さに耐えていた身体が、急激な気温の変化や気圧の変動に対応しようと、フル回転している時期です。自律神経が乱れやすいのは、もう生物学的な宿命なんですよね。
それに加えて、環境の変化。 自分自身の環境が変わらなくても、周囲の「空気感」が変わるだけで、敏感な人はそのエネルギーを浴びて疲弊してしまいます。
だから、身体が動かないのは、あなたが怠けているからでも、やる気がないからでもありません。あなたの身体が「今はエネルギーを温存する時期だよ」と教えてくれている、大切なサインなんです。
「自分ファースト」で、周りのノイズを遮断する
そんな時、一番やってはいけないのが「周りと比べること」です。
SNSを開けば、「今日から新しい職場です!」「新しい習慣を始めました!」というキラキラした投稿が溢れています。でも、あれは人生の「ハイライト」に過ぎません。その投稿をしている人だって、裏では眠い目をこすりながら、必死に自分を奮い立たせているのかもしれない。
もし今、あなたが「何もしたくない」と感じているなら、その気持ちを最優先にしていいんです。 「自分ファースト」でいきましょう。
- 新番組? 見るのがしんどければ、録画して後で見ればいい。
- 新しい顔ぶれのニュース? 馴染めなければ、ラジオでも流しておけばいい。
- 溜まっているタスク? 今日やらなくても死なないことは、全部「後回しリスト」へ。
周りの雰囲気に流されて、無理にアクセルを踏む必要はありません。あなたの人生のハンドルを握っているのは、テレビの向こうのキャスターでも、道ゆくフレッシュマンでもなく、あなた自身なんですから。
「快」を見つける、小さなセルフケア
焦りが止まらない時は、少しだけ視点を変えてみてください。 「何をすべきか」ではなく「何が心地よいか」を探すんです。
大きなことでなくていい。本当に、ささやかなことでいいんです。
- お気に入りの柔軟剤で洗ったタオルに顔を埋める。
- ちょっといいティーバッグでお茶を淹れて、湯気をぼーっと眺める。
- 帰り道、1つ手前の駅で降りて、桜とは関係ない名もなき花が咲いているのを見つける。
- 湯船に浸かって、足の指をグーパーして「今日もお疲れ様」と自分に言う。
楽しい、嬉しい、美味しい、心地良い。 こうした小さな「快」の積み重ねが、トゲトゲした心を少しずつ丸くしてくれます。これが、一番のセルフケアです。
目指すは「60%の自分」
「100%の力で駆け抜けなきゃ」と思うから、スタートラインに立つのが怖くなるんです。 春は、「60%くらいで、とりあえず生きていれば合格」。そう言い聞かせてみませんか?
40%は余白。 その余白があるからこそ、本当に動きたくなった時に、ふっと足を踏み出せるようになります。
「春はこんなもんだ」 「みんな言わないだけで、結構しんどいんだよね」
そうやって、自分に逃げ道を作ってあげてください。 自分を追い込んで、ボロボロになってまで「新しい自分」になる必要なんてありません。今のままのあなたが、心地よくいられることが何より大切なんです。
スタートは、あなたが決めた時にやってくる
カレンダーの「4月1日」は、単なる記号に過ぎません。 学校や会社が決めた「スタート」に、無理やり合わせる必要はないんです。
あなたの春は、あなたの心が「よし、ちょっと動いてみようかな」と思ったその瞬間から始まります。 それが5月になっても、夏になっても、あるいはもっと先になってもいい。
今はまだ、芽吹いたばかりの木々と同じように、じっと栄養を蓄えて、風に吹かれているだけでいいんです。
頑張りすぎている自分に、一度「お疲れ様」を。 そして、もう少しだけ自分を甘やかしてあげてください。
今のあなたが、少しでも穏やかな気持ちで明日を迎えられますように。


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